図解 実戦マーケティング戦略 前書きです
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●本書を手にされたあなたへ
この本は、タイトル通りにマーケティング戦略を「実戦」で使いたい方への手引き書です。もしあなたが、「現状を維持できればいい」「10%の改善が出来ればいい」とお考えなら、小手先の改善で何とかなるかもしれませんから、本書を読む必要はないかもしれません。しかし、自分の、または会社の業績を「目覚ましく向上したい」とお考えなら、戦略レベルでの転換が必要です。「頑張っても頑張っても報われない」と感じていても、多分戦略を変える必要があるので、きっと本書がお役に立てると思います。
「戦略」については、古今東西、玉石混淆、様々な本や理論が出ています。SWOT分析、3C、7Sなど様々なツールも人口に膾炙してきました。私も米国のMBAで戦略を徹底的に学び、実際に営業・マーケティング・コンサルティングの現場で使ったツールも多くあります。
使える戦略ツールには、2つの条件が必要です。1)現場での検証を経ている、そして、2)数値化できる、の2つです。実戦で使えなければ机上の空論となります。また、数値化できなければ、目標設定も効果測定もできませんから、戦略が実行されません。しかし、この条件を満たすツールは実は少ないのです。数あるツールも、実際に使おうとすると、「どうすればいいんだ?」と頭を抱えてしまうものが少なくないのです。では自分で作ってしまおう、と作ったのが、本書で紹介する「戦略ピラミッド」です。戦略ピラミッドは、私の数十社、百近いマーケティング戦略・戦術のプロジェクトを通じて「実戦」で鍛えられた5つのツールから構成されています。5つのツールのうち4つまでは数値化を強く意識しています。使える戦略ツールの2つの条件を満たしているのです。
出し惜しみはしていません。企業に2日間・百万円で行うセミナーの内容をほぼそのまま書き下ろしています。業績を目覚ましく向上したいあなた、頑張っても頑張っても報われないとお感じのあなた、ようこそ、「実戦 マーケティング戦略」の世界へ!
●戦略の必要性
業績を目覚ましく向上する、又は、頑張っても報われない現状を改善するには、小手先の改善では不十分です。100を120にする戦術的な努力ではなく、今までのやり方を変える必要があります。
例えば、広告やチラシを打っても効果がない、という場合は、広告やチラシを改善する、という戦術レベルの変更をしますが、それでも効果が上がらない場合は、そもそも広告やチラシを打つべきなのか、という戦略的な問いかけをする必要があります。
100件の電話をかけて、アポがとれるのが1件であれば、100件の電話を120件に増やすより、電話営業という方法そのものが最適なのか、という戦略レベルの発想転換が必要なのです。
現状維持であれば、今やっている100を120にすれば何とかなるかもしれません。100件の飛び込み訪問を120件にしたり、100円の原価を90円に下げたりするのです。しかし、このような「直線的」な努力は辛いのです。会社の、そして個人体力が続くうちはいいですが、心身共に疲弊して力尽きていきます。そのような場合には、戦略レベルでの転換が必要なのです。
●戦略の誤りは戦術で取り返せない
十年以上前、NTTで営業をやっていたときのことです。当時はテレホンカードが大ブームで(懐かしいですね)、私も営業していました。秋のある日曜日、営業所の近くの広場でお祭りが開かれることになりました。そこで、新人の私が休日出勤してNTTの営業所の前に、大きいテレホンカード掲示板を設置して、展示販売をすることになりました。
その営業所は、駅前の人通りが多い場所にあり、1年前に同じことをやった先輩は、「売れて売れて大変だった」と言っていました。私も勇んで展示販売を出したのですが、その結果は…
惨敗。前年の売上の三分の一。
なぜでしょうか? テレホンカードの人気自体は落ちていません。むしろ更に上がっていたように思います。セールストークの問題でしょうか? POPの問題でしょうか? いえ、前年の経験を活かして、改良されていたと思います。よくよく聞いてみると、先輩曰く、「去年は人通りがこの数倍はあった。」 皆NTTの前を通ってお祭り広場に行っていたのですが、今年は、駅に歩道橋がかかって、人の流れが変わっていたんです。従って、人通りが減り、テレカの売上も必然的に減ったわけです。セールストークなどと言う問題ではなく、場所の選び方を誤ったわけです。私は、ターゲットを「NTTの前を通る人」と誤って選択してしまったのです。そうではなくて、ターゲットは「お祭りに行く人」であるべきだったわけですね。当時の超人気商品、テレホンカードだって、人が来なければ売りようが無いんです。
ターゲット、売る場所、という「戦略レベル」での誤りは、「POP」「声を張り上げて頑張る」などの「戦術レベル」の行動では取り返せないのです。
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●みな戦略的に行動しているか?
では、戦略的に行動しましょう、というと、「とっくにやっているよ」とおっしゃるかもしれません。本当にそうかもしれませんね。それなら、あなたは既に相当優位な立場にいらっしゃいますよ。なぜかといえば、戦略的に動いている人は非常に少ないのです。90%以上の方は、目の前の仕事をこなすのに精一杯で、毎日が終わっていくのです。会社の戦略、自分の戦略を毎日見直して評価する、ということをやっている人は、ほとんどいないでしょう。
私の友人の会計士が、養鶏場のお客様に、「付加価値のついたブランド玉子を売りましょう」という提案をしたそうです。もっともな戦略ですね。低価格商品の代表ですから、何もしなければ特売商品となってしまいます。しかし、その提案は、「今売るのに忙しくてそんなことをやっている時間が無い」だったそうです。つまり、100を120にすることに精一杯で、300、1000にしようというヒマは無い、ということですね。意外と多い話では無いでしょうか?
例えば、ターゲット選定を誤っている例などは実にたくさんあります。例えば、TVコマーシャルを見ると、ほとんどのCMは戦略を誤っています。TVメディアの大きな役割は、
●ブランドを構築する
●認知度を上げる
●店頭に誘引する
●電話などの資料請求を誘引する
ですが、いたずらにCMを流している例は結構あります。例えば、「その会社はもう日本人なら誰でも知ってるよ」という会社なのに、認知向上型のCMをやっていたりします。また、家に届く多くのDMがそうです。「このDMは私に一体何をして欲しいのか?」「だから一体あなたは何を売りたいのか?」というのが明確なDMは意外と少ないものです。DMで何をしたい、という戦略が明確で無いのです。
●戦略とは何か?
では、一体戦略とは何でしょうか? 多くの方が色々なことを言っていますが、基本的にはこの一言に集約されます。それは、
「目的に対しての行動の最適化」です。目標を達成するために、最適・効率的な資源の使い方の体系です。一言で言ってしまえば、
・目標を一番ラクに達成するにはどうすればいいか?
ということです。一番目的を達成しやすい行動の選択、が戦略ということですね。経営であれば、経営目標、例えば利益の増大、を達成するために、最適な行動の組み合わせを考えることが戦略です。利益=売上−費用ですから、売上の増大と費用の減少しかありませんね。利益を増大するために、費用を減らす方が簡単であればそちらを、売上を増やす方が簡単であればそれを行うことです。営業であれば、営業戦略とは、売上を上げるために、最適な行動の組み合わせを考えることです。
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●戦略は集中を伴う
戦略は、資源を最も効率的に使う方法で、通常は「集中」を伴います。よく「選択と集中」と言う言葉が使われますが、選択しなければ集中できませんし、集中は選択を必然的に伴うので、選択も集中も同じことです。戦力が圧倒的に優れていれば、真っ向勝負をすればいいわけですから、戦略は不要です。戦力の劣った側が優れた側に対抗するには、戦力を集中させる必要があります。戦力が劣る側の戦力分散は、敗北への道です。
すると、戦略とは「捨てる」ことになります。集中する、ということは、他のことは無視する、ということですから、勇気がいります。当然リスクを伴います。ですから、戦略を「エイヤ」と直感で決めて突き進むことは危険です。そのために、戦略を様々な角度から、多面的に検証するとと同時に、客観的に数値化して分析していく必要があるのです。戦略ピラミッドでは、5つのピラミッドツールを使って、戦略を検証していきます。もちろん直感で決めることを否定はしませんが、直感と数字との違いがあったときには、直感を再度検証する意味はあると思います。
●戦略は数値化する
優秀な経営者は、直感を大事にする、とはよく言われます。ただ、それは直感が常に正しいことの証明にはなりません。今まで成功した経営者が数字より直感を大事にし、失敗した経営者が直感より数字を大事にした、というデータがあればそれは言えるでしょうが、そのようなデータがあるのでしょうか? また、分析を終えて、数字が答えを出してくれないときに直感で決めるのはどうしようもありませんが、数字が答えを導きだせるときに数字を使わないのは、危険です。「戦略は数値化できるものではない」。多くの方がそう思っていらっしゃるからもしれません。事実、戦略を「図」で表すツールは数あれど、「数字」で表すツールは意外と少ないです。確かに、全ての戦略が数値化できるわけではありません。しかし、この本では、一つのツールを除いて、全て数値化出来るツールをご紹介しています。その理由は3つあります。
1)効果測定:数値化すれば、効果を検証できる
ある戦略をたてたとします。例えば、コーヒーショップが、「競合店との差別化のために、高付加価値化戦略を取る」という戦略を作ったとします。しかし、これは、戦略の方向性としてはいいかもしれませんが、成功・失敗の定義ができません。
例えば、「高付加価値化戦略を取る!」と言っても、何をもって評価するのかわかりません。これを、「商品単価を15%上げる」と数字に置き換えれば、自分がとった戦略が商品単価にどのように影響したのか、定期的に評価することができます。すると、今やっていることが効果があるのかわかります。効果が無ければ、施策を変える、さらに予算をつぎこむ、などの行動の必要性がわかります。これが無いと、失敗しているように見えても、実施責任者の声が大きいときには、誰も反論出来ず、戦略が組織力学によって骨抜きにされたり、握りつぶされたりしてしまいます。
2)目標管理:数値化すれば、日常業務とリンクしやすい
戦略を紙の上で語ることは、ある意味簡単です。経営計画を作り、売上目標を作り、「やれ!」「やりましょう!」と言えばいいわけですから。しかし、そこから本当の勝負が始まるわけです。戦略を作り、半年後、1年後に「やっぱりダメでした」では、戦略の意味がありません。
戦略が「紙の上のもの」となり、実行されずに終わってしまう一つの理由が、「戦略と日常業務との乖離」です。戦略をたてても、人事評価や売上目標などが別の形で設定されていた場合には、社員はそちらを優先するのが人情です。ですから、
○戦略をたてたら、数値目標に落とす
○その数値目標をしつこく追いかける仕組みを作る
ことが重要です。つまり、「数字をしつこく追いかけ、それを達成すれば戦略が達成される」という状態を作るのです。高付加価値戦略を取るなら、例えば「商品単価の上がり具合」で人事評価を行うのです。当然と言えば当然のことですが、人事評価の仕組みと戦略が完全に一致している企業は、ほとんど無いと思います。もちろん、自分が人事評価の方法を決められる立場にいる方は少ないと思います。しかし、その場合でも、部下に、「あの数字はどうなった?」と毎日のように問いかければ、ある程度の効果はあるでしょう。自分ができることからやる、ということが重要かと思います。
3)ベンチマーク:数値化すれば、競合他社との比較が出来る
戦略は、各社・各商品に独自なものになります。各社・各商品によって置かれた立場、使える資源などが違うからです。しかし、そうは言っても、ある程度の目安があった方が戦略が立てやすくなります。また、実現性のチェックもできます。競合他社ができているなら、その80%なり120%くらいは自社でもできる、などの判断ができるからです。
また、ライバルを設定すれば、「なぜ自分にはできないのか」と説得力を持って投げかけることもできます。うまく使えば、社員を鼓舞するツールにもなりえます。
4)シミュレーション:数値化すれば、検証出来る
数値化すると、事前にその現実性を検証出来ます。ある目標を達成するのに、膨大な広告投資や人件費が必要なら、それを事前に排除できます。そして、感応度分析(Sensitivity
Analysis)と呼ばれる分析も出来ます。「この数字をこう変えたら、こちらがこうなる」というシミュレーションが出来るのです。これは、机上の計算ですが、重要です。「どの数字がキーポイントなのか」を事前に掴めるからです。
もちろん、机上の計算だけで「成功」は掴めません。しかし、机上の計算で、ある程度の計算は出来ますし、少なくとも「最初から回避できたはずの失敗」は防げます。
このような理由で、私は戦略を数値化することが極めて重要だと考えています。ですので、この本では数値化するためのツールを多く取り上げています。もちろん、数字自体は何も教えてくれません。数字を見て、そこから「何をすべきか」を考えるのが戦略です。しかし、数字・事実に基づいて考えるのと、勘・経験だけで考えることには大きい違いがあります(勘と経験は重要ですよ。念のため)。
防衛大学教授 水野実氏によれば、孫子の兵法13編の最初は、「計編」だと言う。そして、ここで言う「計」とは、「計略」の「計」ではなく、「計編で主張されている内容からして、計画や計算の「計」という意味で使われていると考えらる」のだそうです。孫子の兵法が、「計算」で始まっているのは、私には非常によく納得できます。
YKKの創立者、吉田忠雄氏が日経ベンチャーのビデオの中で、「どんなものでもまずは計数化する。そこから考えれば、きちんと売れるはずだ。売れなかったら、そこでズレた理由を探していくんだ」という趣旨のことをおっしゃっていました。これが戦略を数値化することの意味なのです。
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●戦略は、夢では無い
戦略は、目標を達成するための手段です。何もせずに目標が達成できるのなら、戦略は不要です。現状のままでは、目標が達成できない、という現実を冷徹に見据え、そのギャップを埋めていくことです。だからこそ、数値化が必要なのです。現実を把握し、そのギャップを埋める、というのは、数字による検証が必要です。戦略は、夢ではなく、夢を達成するための、冷徹な手段なのです。
●マーケティング戦略の2つの方向性
「マーケティング戦略」と偉そうに言っても、実はあまり選択肢は無いのです。大きく分けますと、
○マス戦略:数を求め、大規模化による低コスト戦略
○ニッチ戦略:特定の市場を深く掘る、独自化戦略
の2つしかありません。マクドナルドのようにシェアナンバーワン、駅前の一等地立地、強い価格競争力、幅広いターゲット、という路線のマス戦略か、モスバーガーのように、路地裏でこだわりのある人をターゲットに高付加価値商品を売っていくニッチ戦略、のどちらかしか無い場合が多いのです。その中間の戦略は、どっちつかずで淘汰されていきます。右からのコスト勝負、左からの独自路線勝負のどちらかにも勝てないわけです。
逆に言えば、モスやフレッシュネスバーガーが規模を志向するべきではない、ということにもなります。ロッテリアの店舗数は609店(2004年8月1日現在)、4000店近くあるマクドナルドとの真っ向勝負は、経営戦略論的にはもともと無理があったわけです。マクドナルドが値下げ攻勢をかけてきたときに、ロッテリアは値下げで対抗してはいけないわけです。ロッテリアが最近メニューに特色を出したり、色々な実験をしているのは、マクドナルドとの正面衝突を避け、この左側での生存を図ろうということだと私は推測しています。
さらに言えば、マクドナルド戦略を取れる企業は、数が限られています。自動車のトヨタ、家電の松下・ソニー、などのような企業です。ほとんどの企業には、規模を追うという選択肢は無く、ニッチ戦略で戦うしか無い、ということになります。
●戦略ピラミッドの5つのツール
本書では戦略ピラミッドと名付けた私のオリジナルツール群を使い、効果的な戦略の作成方法を、豊富な実例を通じて身につけていきます。戦略ピラミッドは、戦略BASiCS、マインドフロー、ニーズの広さ深さ、売上5原則、プロダクトフローという相互に連動する5つのピラミッドツールから構成されます。実戦的で、数値化でき、そして実行できる戦略を多面的に作り上げていく手法です。「実戦」の場にいる、経営者の方、営業・マーケティング・企画・販売促進などのご担当者にぜひお薦めします。また、戦略ピラミッドは、個人をマーケティングしていく、キャリアの展開にもそのまま使えます。キャリアを戦略的に展開していきたいビジネスパーソンの方や学生さんにもお読みいただければと思います。
ここから、いよいよピラミッドツールを紹介していきますが、この続きは、本で! 誌上でお会いできるのを楽しみにしております。
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●書籍情報
書名:図解 実戦マーケティング戦略
著者:佐藤義典
ISBN:4820716506
出版:日本能率協会マネジメントセンター
価格:1,600円+税
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