やはり、戦略と言えば真っ先に出てくるのは孫子。誤解を恐れずに言えば、その究極の教えはただ一言、「戦わずして勝つ」
●「戦わずして勝つ」とは?
この言葉は、思っていた以上に深みがあることに最近気づきました。普通、「勝つ」とは、「戦いに勝つ」ことを意味します。ケンカして勝つ、スポーツで勝つ、など、対戦の結果として「勝利」があるわけです。
しかし、「戦わな」ければ、どうやって「勝つ」ことが出来るのか? 戦闘に勝つことは、大事かもしれません。しかし、先日ある戦略コンサルの人が、その会社の人の言葉として紹介していたのは、「全力でやるのは次善の策だ」という言葉だったんです。全力を挙げて仕事をして、成果を出すのは大事。しかし、「やらなくて成果を出す」のは、もっと良い。やらないですむならやらないにこしたことは無い。そういうことだったんです。
私が気づいたのは、孫子が言う、「勝つ」とは、「目的の達成」ということなんだと言うことです。「勝つ」、しかも「戦わずに勝つ」ためには、「勝った状態」を定義する必要があります。何をもって「勝つ」というのか、基準がいるんです。その基準が、「目的の達成」なんですね。中国の統一が目的であれば、敵国と兵を争わせて勝つのではなく、戦力を温存して敵国を従わせるのが最上。
戦略とは、目的達成の手段であることは前に書きました。目的が達成できるのならば、戦って資源を浪費せずに、戦わないほうが良いに決まっています。孫子は、「目的を達成する」という、「戦い」の上位概念に着目して「戦わずして勝つ」と言ったのだと思っています。戦って勝つのは下策。最初に目的ありき。そういう意味をこの言葉は含んでいるのだと思います。
企業間戦争でも当然同じです。相手とシェア争いをして勝つのではなく、目標は自社の利益だとすれば、いたずらに相手とのシェアを意識することなく、利益を出せばいいんです。
●戦わずして勝つ
戦わないで領土を広げるには、どうすればいいか? 簡単です。相手がいないところに進軍すればいいんです。なるべく競争が激しくないところに行けばいいんです。または、誰もいない領土に、一番乗りすればいいんです。
競争が少ない顧客セグメントに特化する。誰も手をつけていなかった製品カテゴリーを一番最初に出す。など、戦わない方法はあるんです。それが、横並びの発想になると、どうしても相手を意識するあまり、相手がいるところを攻めてしまいます。それより、視点を変えてみて、戦わないで済むセグメントや売り方を考えればいいんです。
●戦わずして勝つ方法
戦わずして勝つ、と言うのは簡単ですが、実行するのは簡単ではありません・・・。ここでは、代表的な「戦わずして勝つ」方法を採り上げてみます。
1)誰もいないところを攻める
誰もいないところなら、労せずしてその領土を取ることが出来ます。当たり前ですけど……「無人の野を行く快進撃」状態を自ら作るわけですね。
そんなことできるかって? できることもあります。私が住んでいるマンションの1Fには、回転寿司店が入っています。夜になると、行列が出来ていて、入るのに結構待たされる人気店です。一度入ったことがあるのですが、回転寿司なのにそんなに安くも無く、とりたてておいしくも無く、サービスはむしろ良くありません。イヤな思いをさせられました。しかし、人気があるのです・・・。私は、渋谷にお気に入りの回転寿司があるのですが、そこは全皿110円均一と安く、ネタもおいしく、サービスも割といいんです。その店に比べると、マンション1Fの回転寿司は相当劣ります。でも、それでも行列が出来る・・・。それに対して、渋谷のその店はいつも割と空いています・・・。
それはなぜでしょうか? ここには、誰もいないんです。回転寿司はこの店1店だけ。他に食べるところも少なく、競争が少ないのです。ですから、そんなにおいしくも安くもない回転寿司でも行列が出来るんです。逆に渋谷は、競争が激しいので、安い、うまい、で辛うじて生き抜けるんです。競争が少ない市場を選べば、ラクに、戦わずして勝てるのです。
2)圧倒的な強さを持つ
ある特定の分野で、圧倒的な強さを持つと、戦わずして勝てます。例えば、10分1000円の床屋、QBハウス。価格とスピードで、圧倒的な競争力を誇ります。これなら、価格とスピードを求めるお客様は、QBハウスに行きます。スピード、というポイントで戦わずして勝っているわけです。全ての分野で圧倒的に強ければ理想ですが、普通はそれは不可能ですので、地域、サービス、製品、など、ある分野で圧倒的な強みを発揮すれば勝てるんです。
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